1000DL記念の後日談SSになります。ヒロイン視点の小説です。
ネタバレを含みますので、ご視聴後の閲覧を推奨します。
家族写真
「朔太郎さん」
夕焼けに染まるベランダ。
スマホ越しに見た彼は一瞬、驚いた顔をしたけれど、すぐこちらに笑顔を向けた。
遠くに聞こえる喧騒に混じって、無機質なシャッター音が響く。
「ふふ、いい写真撮れたよ」
「振り向いたら、キミがスマホを構えてるからびっくりしたよ。僕の写真なんか撮ってどうするんだい?」
「朔太郎さんこそ、ベランダで黄昏れちゃってどうしたの?」
「いや、別にカッコつけたわけじゃなくて……明日で、この部屋ともお別れだからね。最後にこの夕日を目に焼き付けておきたいと思ってさ」
そう言ってこちらに向ける朔太郎さんの笑顔が、夕日の陰影と合わさってどこか切なげに見えた。
たくさんの思い出が詰まったこの部屋を、私達は明日出ていく。
朔太郎さんは私よりこの部屋に長く住んでいたから当然、色々と思う事もあるんだろうな。
「朔太郎さん、もう一枚写真撮ってもいい?」
「だから、僕の写真なんか撮っても面白くないと思うよ? それより葵の写真を撮ってあげたらどうだい」
私が抱っこしている葵に視線を向ける朔太郎さん。
「葵の写真なら毎日いーーっぱい二人で撮ってるでしょ? 私、思ったんだ。葵が産まれてくれたから……親として、私達も葵と一緒に成長してるんだなって。私達の写真も撮ることで、この子が大きくなってアルバムを見た時、同じ時間の中で年をとって…お互い成長して……ずっとあなたの側にいたんだよ、愛してるよって伝わるかなって。思い上がりかもしれないけど」
葵のぷにぷにのほっぺたを触りながら答える。
今は私の両手にすっぽり収まる葵だけれど、いつか抱えきれないくらい大きくなって、私の腕の中から離れていくんだろう。
それを思うと少し切ないけれど、その日が来るまで精一杯の愛情を込めてあげたいと思う。
「大丈夫……きっと伝わるよ」
朔太郎さんの手が伸びて、そっと葵の頭に触れる。
柔らかな毛の感触を楽しむように撫でた後、私から優しく葵を抱き上げた。
「ほら、葵。夕日がキレイだねえ。パパもママも、ここから見る景色が大好きなんだよ」
「あぶぅっ…あうあ!」
わかっているのか、いないのか。
ヨダレを口の端からぶくぶくと泡立てながら答える葵の様子を、朔太郎さんは目を細めて楽しげに見つめている。
葵だけじゃなくて……朔太郎さん。
あなたも同じなんだよ。
朔太郎さんと一緒に生きてきた証をずっと残しておきたい。
おじいちゃんとおばあちゃんになった時、こんな頃もあったねって二人で笑い合えるように。
ずっと、思いを綴っていきたいんだ。
遠い、未来のあなたへ。